腕輪物語6

 その頃、つまり中津国第三紀は、すでに遠い過去となり、全土が姿を変えてしまっているが、その頃中民たちが住んでいた地域は、今なお彼らが細々と立ち去りがたく暮らしている地域と明らかに同じである。すなわち、大海の東、旧世界の北西部である。中民族の発祥地について、健母の時代の中民たちは何の知識も持ち合わせていなかった。学問を好む気風は(系譜学は別として)中民の間では決して一般的ではなかった。しかし古い家柄の出には、家伝の本を調べるもの、妖精や太民や人間たちから古い時代や遠い地方の集めるものさえまだいるにはいたのである。そういう家の記録が始まったのは中民荘に定住した後に過ぎず、その最も古い言い伝えですら、種族放浪の時代にまでさかのぼるのがやっとであった。それでもこれらの言い伝えや、彼らの風変わりな言葉や習俗を根拠にして考えると、他の多くの種族と同様に中民も遠い昔に西に移動してきたことは明らかである。最も古い言い伝えは彼らが大河安穏団の上流の谷間、緑林大森林の外れと、霜降り山脈との間に住んでいた時代のことを垣間見させてくれるようにように思われる。その後彼らがどういうわけで、危険きわまりない霜降り山脈の横断という難事を成し遂げ、エリアドールに移住したかは、もはや定かではない。しかし彼らの話によると、一つは人間族が増えすぎたため、一つは緑の森に落とされた影の影響と思われる。緑の森はその影のせいで暗くなり、闇の森と改名された。